ほーりーの野球日記

ほーりーの野球観察日記

自分の観方で野球を紹介します

エースのバトン

 

 5月27日、千葉県海浜幕張

 その日、私は千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」にいた。

 今年一回目の「ブラックブラック2017」と銘打たれたこの日、観戦に訪れたファンに試合前に配布されたビジターブラックユニフォームのこともあり、外野の一角を残してマリンスタジアムは黒に染められた。私は内野指定席のチケットを取り、バックネット裏に近い二階席から試合開始を待った。

 風速8メートルの強風が、レフトからライトへ向かって吹いている。その風の強さを表すように、バックスクリーンに掲げられているチームフラッグが激しくなびいている。レフト側の壁面に開けられた隙間からは、東京湾が波打っているのが確認できる。

 14時、ロッテ対オリックスが定刻通りプレイボールした。

 

試合は三回裏に動いた。この回先頭の九番・田村が四球で出塁し、それを見事得点につなげた。この一打について言うと、オリックス先発・松葉の低めに落ちる変化球を地面すれすれですくい上げた清田を褒めるべきだったと思う。貴重な先制点となる2点タイムリーヒットが、結果的に試合を決める一打となった。

そして、結果論かもしれないが、田村に与えた四球がこの試合を決定づけたといっても過言ではなかった。というのも、そのイニングの表、九番から始まるオリックス打線に対して、ロッテ先発・二木が三者凡退にきってとった一方で、オリックス松葉は田村を歩かせ、その田村が先制のホームを踏んだからだ。

つくづく、イニングの先頭打者に出塁を許すことのリスクを痛感させられる両チームの攻防だったと思う。

 

◆この試合で出会った新たなヒーロー

試合結果もさることながら、私が特に感銘を受けたのが、ロッテ先発・二木康太投手だった。9回1失点、無四球完投勝利という、見事な投球だった。

常時140キロ後半を計測する力のあるストレートを軸に、大きく縦に割れるカーブを織り交ぜた投球術と、高めに浮く球や甘く入る失投も少ない安定感のある投球で、オリックス打線を封じ込めた。九回表にオリックス四番・T-岡田にソロホームランを浴びるも、正直いってこの一打のように、打線をつなぐよりも打者全員が強振してホームランを狙ったほうが得策なのではないかとも思ってしまうほどだった。

 

文句なしでこの試合のヒーローだったこの二木を、恥ずかしながら私はこの試合が始まるまで名前しか聞いたことのない程度の認識だった。実際、彼のプロとしての実績を見てみると、ここまで突出した成績を収めているわけではなかった。だが、ここまで見事な投球を間近で見てしまうと、私は今後、この二木という若い投手を注目せざるを得なくなってしまった。

この二木という投手のルーツはどこにあるのだろうか。それを探るために、この試合が終わってからすぐに過去の新聞記事などを遡って彼のことを調べた。すると、その陰にはある投手の姿があった。

 

◆無名からのスタート

鹿児島県出身、1995年8月1日の21歳。鹿児島情報高校時代は春夏を通じて甲子園に出場経験はないものの、3年夏には強豪の神村学園を破るなどチームをベスト4まで導いた。その年のドラフト会議でロッテから6位指名を受け入団。なお、同期入団した同世代には松井裕樹桐光学園楽天)、森友哉大阪桐蔭⇒西武)、田口麗斗(広島新庄高⇒巨人)、上林誠知(仙台育英ソフトバンク)、砂田毅樹(明桜高⇒DeNA)らが名を連ねる。松井裕樹森友哉らが注目を集めたこの年のドラフトにおいて、二木の注目度はその順位からみても、それほど高くなかったように思われる。

プロ初登板は2015年10月5日の日ハム戦。2番手として登板し、5回を1失点に抑える好投を見せ、翌シーズンでの飛躍を期待させた。2016年は開幕からローテーション入りし、4月12日の楽天戦でプロ初勝利を挙げた。この年、22試合、116.1イニングを投げ、7勝を挙げた。その年の契約更改で来期の目標を2桁勝利とした。

プライベートでは、同じ鹿児島出身のAKB48柏木由紀のファンを公言し、対談を希望している。それに対し柏木は自身のツイッターで「ぜひ」と答え、球団は新人王を獲ることを条件にその対談を検討すると発表した(その年の新人王は日ハムの高梨が受賞した)。柏木はその後も関係者を通じ、「完投でのプロ初勝利おめでとうございます!お仕事中で残念ながら試合を観ることはできませんでしたが、同郷の二木選手の活躍に、嬉しい気持ちでいっぱいです」と初勝利を祝うなどのコメントを寄せている。

2017年の「あなたがチョコを渡したい選手投票」というバレンタイン企画では10位にランクイン(1位は前年ドラ1の成田翔投手)するなど、徐々にファンの間にも二木の名が浸透してきた。

 

◆絶対的エースから未来のエースへ

 二木がプロ初勝利を手にするのは2016年4月12日のことだったが、それ以前の登板では4回3失点、3回3失点と2試合連続KOされている。思い悩む二木に声をかけたのが、チームのエース、涌井秀章だった。

「キャンプの時と今で、フォームがちょっと違っているよね。キャッチボールから、違う。あの時はこんな感じだった。今はこんな感じになっていないかな」

エース自ら、身振り手振りでアドバイスを繰り返した。

些細なフォームのズレを的確に見抜いていたエースの一言により、次回登板までの期間でそのフォームのズレを徹底的に修正した。初勝利を手にしたのはその次の登板だった。

これは私の気のせいかもしれないのだが、ひとつ気になったことがあったので記しておく。後出しにはなってしまうが、先日の試合で二木の投球を見たときに、「涌井みたいなゆったりしたフォームだな」という印象を受けたのだ。もしかして…と思い、その日の投球フォームと昨年までの投球フォームを動画で見比べてみた。すると、昨年までは投球動作が一連のモーションの中でスムーズに行われていたのに対し、先日の試合ではテイクバックに入った後に上体がすこし沈み、リリースの直前までゆったりした上体運びだったように見受けられる。つまり、投球モーションが涌井のそれに重なるのだ。真意のほどはわからないが、ひょっとすると、上記のフォーム修正の際に涌井から何らかのインスピレーション受けたのかもしれない。

 

涌井の影響かと思わされる場面が、もう一つある。

先日の試合でのヒーローインタビューでの発言。

―どの時点で、今日は最後までいこうと思っていましたか?

「2点もらった時には、もう絶対自分で最後まで投げぬこうと思ってました」

2点もらった時、つまり3回の時点で完投を意識していたというのだ。この意識の下には、ここにも涌井の影響があったのかもしれない。

今年5月19日の楽天戦、エース涌井が志願して9回のマウンドに上がった。その次の試合に先発し、7回115球、8奪三振で無失点投球をした二木はこのように語っている。

「(前日の)涌井さんのピッチングを見て、自分も強い気持ちで頑張りたいと思ってマウンドに上がった。自分も一人で投げ抜こうと最初から飛ばしていった結果がゼロに繋がった。連敗していた中で、ワクさんのあんなピッチングを見て、何も思わない投手陣はいない」

先日のヒーローインタビューでの発言は、この涌井の姿が背景にあるのかもしれない。

 

絶対的エースから将来のエースへ―

二木はいま、そのエースのバトンを受け継ぐターニングポイントにいるのかもしれない。

この試合が後になって、新たなエースの誕生の瞬間だったと思えるように、次回以降のピッチングも注目させてもらいたい。

 

出典:「サンケイスポーツ」2016.11.28

「デイリースポーツ」2016.03.29、2016.04.12、2017.02.14

千葉日報」2016.04.26

「Full-count」2017.05.21

過去のシーズン成績などは、NPBの公式サイトを参考