山田哲人、千賀滉大、西川遥輝、山﨑康晃、これらに共通するのは、彼らが全員同級生ということだ。1992年度の生まれ、高卒なら7年目、大卒なら3年目となる彼らには、私は個人的な思い入れがある。というのも、私も彼らと同じく、92年生まれで同級生だからだ。
史上初の2年連続トリプルスリーを達成した山田、育成出身で初となる2年連続2ケタ勝利を達成した千賀、日本シリーズでのサヨナラ満塁弾も記憶に新しい西川、そして8月25日、1年目から3年連続20セーブ達成という史上初となる記録を打ち立てた山崎。地元横浜の球団で同級生ということで、この中でも山崎は、勝手に親近感を持ってみさせてもらっている。
1年目からクローザーを務める山崎は新人投手記録を樹立する32セーブをマークする活躍を見せるも、翌年は2年連続での大台突破となる33セーブを記録するものの、救援失敗が見られるようになり、ビハインドの場面で登板することもあった。3年目も苦しいスタートとなり、4月には2試合連続の救援失敗でセットアッパーに配置転換された。しかし、中継ぎ転向後は安定した投球を取り戻し、クローザーに再転向し、前述した通り1年目から3年連続20セーブというプロ野球記録を作った。
不調から一転、再び輝きを放つ山崎に一体どのような変化があったのだろうか。今回は、これまでの成績を過去2年の成績と比較して、山崎にどのような変化が現れたのかみてみる。
◆ランナーを出しても返さない「ピンチ◎」
まず見てほしいのが年度別成績だ。2016年の不調は、防御率が物語っている。登板時に平均的な投手と比べてどの程度失点を防いでいるかを示すRSAAがマイナスを記録するなど、クローザーとしては不本意な成績だったといえる。いわゆる「2年目のジンクス」に直面したように思われる。
ところが、今年は1年目に劣らない成績を残している。特に、出塁させた走者を生還させなかった割合を示すLOB%は1年目を上回る成績を残している。出してしまったランナーは返さない、この数値が今年の山崎の復活を印象付けるデータではないだろうか。
図1 年度別成績
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セーブ数 |
RSAA |
WHIP |
||
2015 |
37 |
1.92 |
78.39% |
9.74 |
0.87 |
2016 |
33 |
3.59 |
75.50% |
―1.09 |
1.39 |
2017 |
20 |
1.92 |
79.15% |
8.69 |
1.06 |
今年の特徴として、非生還率が高いことが考えられる。今年は過去2年と比べ、走者の有無でどのような変化があるのだろうか。無走者と得点圏にランナーがいる場合の被打率を示したのが次の図2だ。これによると、1年目までは得意にしていた無走者の場面を2年目では苦手にしており、そのまた逆も然りといったように、ランナーを背負った場面での被打率に好不調の波がある。
ところが、今年はランナーの有無にかかわらず被打率はどちらも低く、場面に左右されずに安定した投球ができているように思われる。
図2 リード時のランナー別被打率
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無走者 |
得点圏 |
2015 |
.206 |
.286 |
2016 |
.308 |
.152 |
2017 |
.236 |
.241 |
◆ストレートの被打率と、勝負球の選定
それでは、具体的に過去2年と違って今年の投球にはどのような変化があるのだろうか。さまざまなアプローチから山崎の投球内容を検証したところ、昨年までとは違う、ある点がみられた。配球だ。
それを説明する前に、山崎の球種別の被打率を表した図3をみてほしい。すると、昨年まではストレートがよく打たれていることがわかる。
それをふまえて、球種別投球割合を示した図4をみてほしい。これによると、昨シーズンまではストレートとシュート(山崎の場合落ちるツーシーム)の2種類で全投球のほぼ半分を占めており、その比率もほぼ五分五分であることがわかる。厳密にいえば、ストレートの割合のほうが若干だが高い。ストレートを投げたときの被打率の方が高いにもかかわらず、だ。
話を配球に戻す。今年の山崎の変化は、まさにこの球種の投球割合にある。これまでほぼ拮抗していた2つの球種の投球割合を、今年はストレートを多めに投球するスタイルに変化させていることがわかる。これまで被打率が低かったシュートが今年はうまく対応されているため、ストレートの割合をより多くしたということだろうか。ここには単純だが、被打率の高い球種を少な目にし、低い球種を多めに投げることでピンチの芽を摘んでいるような工夫がみられる。
図3 球種別被打率
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ストレートの被打率 |
シュートの被打率 |
2015 |
.300 |
.138 |
2016 |
.321 |
.203 |
2017 |
.174 |
.262 |
図4 球種別投球割合
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ストレート |
シュート |
スライダー |
2015 |
47.69% |
45.50% |
6.00% |
2016 |
51.88% |
45.80% |
2.21% |
2017 |
55.07% |
37.97% |
6.96% |
カウントのとり方にも変化がみられた。初球と勝負球でそれぞれ使った球種としてどちらが多かったかを示すのが図5だ。それによると、これまでは勝負球にシュートを使っていたのに対し、今年はストレートを多く使っているようだ(詳細な数値データが出せなかったことは悔やまれる)。カウントを稼ぐ球と勝負球を入れ替えることでこれまでとは違う投球術を実現させている。
図5 カウントのとりかた
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初球 |
2ストライク後 |
2015 |
ストレート多め |
シュート多め |
2016 |
半々 |
シュート多め |
2017 |
シュート多め |
ストレート多め |
◆新たな武器、スライダー
話を配球に戻したい。山崎は今年、ストレートとシュートの配球以外にも、スライダーを取り入れることで投球に幅を持たせているのだ。図4をみると、今年は例年以上にスライダーの投球割合が若干だが高いことがわかる。
今年のキャンプから取得を目指し、今シーズンでの多投を検討しているとキャンプ中に語ったスライダーの投球割合が、少しではあるが確実に増えている。フォークのような軌道で落ちる独特なツーシームが山崎の最大の武器であるが、そのツーシームの配球を変え、その上さらにスライダーの完成度が高まると、打者にとって今以上に驚異的な投手になるだろう。
2015年3月31日、プロ初セーブを挙げた山崎はその日のヒーローインタビューでこう言った。
「初セーブをした山崎康晃です! 今日の経験を生かして『小さな大魔神』になります!」
『大魔神』は佐々木主浩だが、その佐々木に比べて体格に大きな見劣りがある。本人はそれをふまえて自身を『小さな大魔神』と表現したのかもしれない。
横浜、抑え、落ちる変化球、この3つは確かに『大魔神』を連想させるには申し分ないが、まだ本家大魔神にはあり、山崎にはないものがある。それは、優勝だ。
佐々木は98年、プロ野球史上初の40セーブを挙げ、リーグ最多の45セーブで優勝に貢献。さらにその年、当時の日本記録となる通算217セーブと2年連続30セーブを記録。その年のMVPを受賞し、『大魔神』が流行語になるなど、野球界にとどまらない社会現象をもたらした。
長年クローザー不在が課題だった横浜に、これ以上ないストッパーが新たに誕生した。小さな大魔神が名実ともに大魔神となるということは、優勝というタイトルを獲得することと同義だ。いまの山崎、そしてDeNAなら、それが可能かもしれないどころか、いつか佐々木を抜く日が来るかもしれない。